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音楽著作権を巡る訳詞の問題・入門編

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<その❶:法定訳詞と日本語>

 シャンソンに限らず、外国曲を日本語で歌う場合、原則、カバー申請をして許諾を得る必要がある。

 日本シャンソン界では、そのルールを知らずに(原作者の許可なく)詞をつけて歌われるのが常態と

なっているので、フランスの著作権団体から「違法訳詞天国・日本」という指摘がなされたこともある。

こうした著作権事情に詳しい芳賀詔八郎氏の尽力により、古賀力氏の訳はカバー申請されたものが

多いが、一般的にはサブ・パブリッシャーから「訳詞でなく日本語詞と表記せよ」と求められる。

 一方、「訳詞」という表記がなされているのは「法定訳詞」または「適法訳詞」と言われるもので、JASRACに訳詞に作詞・作曲と共に訳詞として登録されているものに限るが、日本で歌われている

シャンソンの99%は、その要件を満たしていない。

 

<その❷:ミスチルと稲垣潤一の訳詞騒動>

 Mr. Childrenはピート・シガーの名曲「花はどこへ行った」をカバーしようとして録音したが、原曲の

内容を変更したため発売不許可となり、メディア配布されたサンプル盤を回収する騒ぎとなった。(後に

「my confidence song」をカップリング曲として差替え「innocent world」をリリースし、大ヒット)

 一方、稲垣潤一はカバーアルバム「ある恋の物語 My Standard Collection」をリリースする際、8曲の

カバー申請許可を得る為、各々の作詞・作曲・出版社等の手続きを完了し、発売に至っている。

 

<その❸:ワンダーガールズの訴訟騒ぎ>

 韓国の人気グループ=ワンダーガールズは、タイ、ベトナム、カンボジア等東南アジアや中国で、

その衣装・振り付けまでパクったグループが、雨後のタケノコの如く登場。所属事務所は法的措置を

とろうとしたが、振り付けや衣装ではそれを取り締まる法的根拠が薄いので、著作権法を盾に違法訳詞として提訴し、音楽業界に激震が走った。

 

<その❹:日本シャンソン界の訳詞騒動>

 法定訳詞については、JASRACに申請して所定の金額を支払えば、誰でも歌唱や録音が可能であるが、法定訳詞以外(ということは、いわゆる「違法訳詞」及びカバー申請が認められた「日本語詞」)の詞については、その詞を書いた人物の著作物とみなされる為、たとえそれが原作者の許諾を得ていない

ものでも、書いた人物に歌唱許諾の権限があり、その詞の使用料金額も自由に設定できるという事になる。

 現に、日仏シャンソン協会のレコード部門AFJCレーベルでダリダの「歌い続けて」をCD化しようとした

歌手が、その詞を書いた人の許諾を得られず、レコーディング・スタジオ内で立ち往生。困り果てて「

ムッシュならOKしてくれそう。」と矢田部道一氏に電話したところ口数少なく「OK、了解。」と一言。

それがムッシュが亡くなる直前最後の会話。

 他にも歌唱や録音に際し、金銭を要求されたが何とかなりませんか?という相談電話がここ1~2年AFJCへよくかかるようになった。

 日本では、歌手が誰かに頼んで詞を書いてもらい、「訳詞料」として支払いをするケースもあり、

そうするとそれは金銭を支払った歌手の為だけの詞ということになるケースもある。

 

<その❺:フランスでの訳詞>

 イタリアやスペインの楽曲がシャンソンとなっている場合も多いが、フランスでは訳詞家が訳し、原作者の許諾を得るシステムが定着。しかもフリオ・イグレシアスの作品は殆どミッシェル・ジュールダンが

訳すように、プロとプロの間のルールに乗っとったものばかり。(ちなみに拙作「ラスト・リサイタル」も

ミッシェル・ジュールダンが仏語訳詞を書き、SACEMに登録)

 

<法定訳詞取得が困難な理由>

 昔は、日本語詞をもう一度フランス語に訳詞し直して申請するだけでいい場合もあったが、このところ、そのトラック・ダウン前のCD音源を原作者たちに送って聴いてもらう必要があるケース出現。従って、

フランス人好みの歌唱をする歌手が歌う日本語詞ばかりが次々と法定訳詞となっていると言われて

いる。(この20年位の間に法定訳詞となったシャンソンは殆どが浜﨑久美子、岡山加代子、青山桂子の

歌った日本語詞)

 

<とりあえずの注意喚起とまとめ>

①シャンソンを歌う時、法定訳詞はライブもCDも全く問題発生せず

②法定訳詞でも、映像を伴うDVD等は、JASRACに権限がなく、オリジナル・パブリッシャーを通じて

許諾が必要(膨大な時間がかかるので、日本ではシャンソンDVDが極めて少ない)

③歌手が自分で作った物も含め、JASRACに登録されていない詞を、本人に無断で歌唱した場合に、

多額の支払が必要となるケースもあり、特にCD化する時は事前に要チェック。

④一応、ライブに関してはアドリブで歌ったものが、誰かの訳詞に似ていたという解釈で逃れられる

ケースが多いとのアドバイスも多いが、CDや楽譜は極めて厳しい。

⑤日本未紹介のシャンソンを紹介・普及させる運動<シャンソン・ルネッサンス>によって広まり、

法定訳詞及び、訳詞者が別途金銭要求をしない楽曲について、動画と歌詞をセットにしてYouTubeに

アップされたサイト「AFJC chanon」を観れば参考になると思料される。

 

<JASRACデータベース検索>

作者モーリス・ファノンは、「フランスでも良く知られる阿部定の世界と同様、首を絞めつつの情愛を

日本語で正しく伝えている」と言って、加藤修滋の詞を法定訳詞に認めた。

JASRACでこうして楽曲を検索すれば、フランスの作詞・作曲・権利出版社と日本語法定訳詞者、

サブ出版社名が出てくる、「訳詞」という項目がないシャンソンは、カバー申請された日本語詞

又は無許可で訳詞されて歌われているものということになる。

 

<最近の主な法定訳詞シャンソン>

 シャルル・アズナヴール

 青春と言う宝、美しき絆、恋は一日のように、

 不滅のアーティスト、燃える思い愛の日々

 ミッシェル・フューガン

 ブラボー!ムッシュ・ル・モンド、アンコール

 シャントゥ、太陽の誘惑

 パトリシア・カース

 ホテル・ノルマンディ、JOJO

 マリー・ラザロ   

 忘れ得ぬ面影、愛の響き~人生はアズナヴールの歌と共に~

 ジュ シャントゥ

 ジョルジュ・シャトラン

 愛し児へ、歓びに包まれて

 エンリコ・マシアス

 幸せへの言葉~嫁ぐお前に~

 ミッシェル・デルペッシュ

 哀しみの終わり~さあ!今から~

 アルス・ドナ

 やさしさ

 ジャクリーヌ・ダノ

 モネの庭

 リンダ・ルメイ

 シャルルを讃えて

 モーリス・ファノン

 スカーフ

 

         ー日仏シャンソン協会 機関紙よりー

 


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