カフェ・コンセール・エルムには、人間の背丈ほどのスピーカーがあります。
その名は「STAX」でヘッドフォン・メーカーとして熱烈なファンを持つ。
しかし、スピーカーは一部のオーディオ・マニアにしか知られず、
ましてコンサートで使用されることはありませんでした。
エルムの中心メンバーだったタンゴ楽団「タンゴ・デ・ラ・エスペランサ」の
サウンドに魅せられ、朝日グラフに5ページの特集記事を書いた写真家・朝倉俊博は、
「STAX」の社長にエルムのライブで使用する話を持ちかけました。
「エスペランサのようなサウンドやチェロ、ギター、ヴァイオリン
そしてシャンソン歌唱には最適」と・・・・・。
「STAX」から、そのスピーカー・アンプが持ち込まれ、無期限で無償設置し、
その検証データを会社へ無償提供という約束。
(通常のSTAXスピーカーの倍の大きさなので、エルムへ搬入する時、
近所の住人が「どなたか亡くなったの?お棺が2つも・・・・・」と不安がりました。)
朝倉氏の言う通り、通常のスピーカーでは「パワー」、「STAXスピーカー」では
「音質」をというコンビネーションは大成功。
特にシャンソンのジャクリーヌ・ダノ、タンゴのグラシェラ・スサーナ、
フォルクローレのロス・インディオス・タクナウ等の海外アーティストは、
その微妙な中音域の延びに感動し、「自国でも・・・・・!」と。
その後、経営難に陥り、今は幻のスピーカーとしてエルムの音場を創るのみです。
故・朝倉氏は、磨赤児を撮った「幻野行」(1500部限定出版)は、
貴重な遺品として私の書棚に飾られています。