「エルム」で一番人気だったのは橋本さん。
「奈央子スマイル」と名付けられたその微笑みに男性客はメ~ロメロ。
彼女の笑顔を見ないと一日が終わらないと言う人も。
色々な出来事がありましたが、彼女の結婚式場へエルム歌手と共にタクシーで向かった折、某劇団の車が信号無視して突っ込んだ事故。
助手席側の私は、救急病院でろっ骨々折と診断。
ベルトで処置をしてもらって式場へ。
何としてでも約束の20分間ピアノを弾かねばと、必死の演奏。ところがお色直しが遅れているので、あと20分と言う司会者の合図。計40分弾き終わった時は失神寸前。
来賓の某FM局のご挨拶は「20歳の年の差婚だから、あなたが60歳になったらご主人は80歳。老人介護の為の結婚みたいなものです。よっぽどホレたんだね」と。
それもそのはず「エルム・ナイトショー」に来たご主人(私の友人)にプロポーズされ、1週間で結婚を決めたのですから。
プロポーズと言えば、離婚後、歴史に名を残すような?2度目のそれは、プロレスラーがリング上からしたプロポーズ!
エルムでもワイン好きは半端じゃなかった橋本さんは、ある時深酒をして吉田外科へ救急搬送。
治療をイヤがってあばれる彼女をドクターは「ご主人、押さえつけて!」と。
「僕は主人じゃないけど」と言う間もなく、馬乗りになって押さえつけようとした私は見事に床に投げ飛ばされました。
パリでも大事件。2人で一部屋なので各々鍵を持ちます。
同室の人が外出したので、橋本さんが一人入浴。
深酒をしたのでしょうが、蛇口は開けっぱなし。気付いた時には廊下が水浸し。下の部屋の天井から壁へポタポタと。
ホテルの支配人に「弁償します」と言ったら、
「毎年、来て下さる上に当ホテルで清掃不要なほど一番キレイに使って下さる方たちなのでお金なんて要りません」と。
優しさの典型!と思いました。
翌年その理由が判明。
見違えるほど立派なホテルに変身!
要するに今回の様な事は良くあるので、ちゃんと保険に入っていたのです。
かえって感謝されてメデタシ、メデタシ。
最後の事は忘れられません。
入院中の彼女を、私と厨房の赤司さんとでお見舞いに。
「面会謝絶ですが、一応確認します」と看護士さん。
結果「お会いしたいそうです」と言われ病室へ。
苦しい息づかいの中で酸素マスクを外してか細い声で
「ゴ・メ・ン・ナ・サ・イ」とひと言。
2人とも立ちつくして声にならず涙を流すだけ。
私の手元には絶頂期の頃の橋本さんとエルム歌手たちがシャルル・アズナヴールを囲んで撮った写真があります。
そして中日新聞が彼女の人生についてスクープした特ダネの大きな記事。
どちらも「奈央子スマイル」がまぶしい光を放っています。
ご冥福を祈りつつ、合掌。